経営分析から経営診断まで(中小企業診断士が行っている仮説立案と検証の手順)
本記事では、中小企業診断士が行う経営分析から経営診断までの一連のプロセスを解説いたします。
経営分析の基本的な手法や、財務諸表の読み方、SWOT分析の実施方法などを垣間見ることができるように解説しています。
さらに、経営診断における仮説の立て方や検証方法、改善策の提案までのプロセスを網羅的に説明しています。
中小企業の経営者や管理職の方々に役立つ内容となっています。
経営分析と診断のプロセスを体系的に学ぶことで、自社の経営課題を的確に把握し、効果的な改善策を見出すための参考にして頂きたいと思います。
Contents
経営分析と経営診断の基礎知識
経営分析とは何か
経営分析は、企業の財務状況や業績を客観的に評価し、その強みや弱みを明らかにするプロセスです。
経営分析は、企業の健全性、収益性、効率性などを多角的に検証し、経営上の課題を特定するための重要な作業になります。
主な経営分析の手法には以下のようなものがあります。
- 財務諸表分析(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の分析)
- 比率分析(流動比率、自己資本比率、ROEなど)
- 同業他社比較(業界平均や競合他社との比較分析)
これらの分析を通じて、企業の現状を正確に把握し、将来の経営戦略の立案に活用することができます。
経営診断の目的と重要性
経営診断は、経営分析の結果を踏まえて、企業の問題点を特定し、その解決策を提案するプロセスです。
経営診断の主な目的は、企業の持続的成長と競争力強化を行う為の現状把握を行うことにあります。
経営診断の重要性は以下の点にあります。
- 客観的な視点による問題点の洗い出し
- 経営者の気づきを促す
- 具体的な改善策の提案
- 中長期的な経営戦略の立案支援
- 経営リスクの早期発見と対策
経営診断は中小企業の経営改善と成長に不可欠なプロセスとされています。
特に、環境変化の激しい現代においては、定期的な経営診断を通じて自社の状況を客観的に評価し、その結果に対して迅速に対応策を講じることが重要です。
中小企業診断士の役割
中小企業診断士は、経済産業大臣から認定を受けた経営コンサルタント国家資格保持者です。
中小企業診断士は、経営分析と経営診断のプロフェッショナルとして、中小企業の経営改善や成長戦略の立案を支援する重要な役割を担っています。
中小企業診断士の主な役割は以下の通りです。
役割 | 具体的な内容 |
---|---|
経営分析・診断 | 財務分析、SWOT分析などを通じて企業の現状を把握し、問題点を特定する |
経営改善提案 | 診断結果に基づいて具体的な改善策を提案し、実行を支援する |
事業計画策定支援 | 新規事業や事業拡大の際の事業計画立案をサポートする |
資金調達支援 | 金融機関への提出資料作成や交渉のアドバイスを行う |
経営相談 | 日常的な経営課題に対するアドバイスや情報提供を行う |
中小企業診断士の資格は「中小企業支援法」に基づく公的な資格であり、中小企業の経営課題に対して総合的・実践的な助言を行う専門家として位置づけられています。
経営分析と経営診断は、企業の現状を正確に把握し、将来の成長につながる戦略を立案するための重要なプロセスです。
中小企業診断士はこのプロセスを専門的知識と経験を活かしてサポートし、中小企業の持続的な発展に貢献します。
経営者は、これらの専門家の支援を積極的に活用することで、自社の経営をより強固なものにすることができるでしょう。
商工会議所や商工会などで、中小企業診断士を多く見かけるのは、このような支援には中小企業診断士が必要と思われているからです。
経営分析の手法と過程
経営分析は企業の健全性や成長性を評価する上で不可欠なプロセスです。
本章では、経営分析の主要な手法とその過程について詳しく解説します。
財務分析の基本
財務分析は経営分析の核心部分であり、企業の財務状態や経営成績を数値的に把握するための重要なツールです。
主に以下の3つの財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を分析対象とします。
損益計算書の分析
損益計算書(P/L)は一定期間の企業活動の成果を表す財務諸表です。
主に以下の項目に注目して分析を行います。
- 売上高
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
- 当期純利益
売上高利益率や売上高対営業利益率などの指標を算出し、収益性を評価します。
また、前年比や業界平均との比較も重要です。
国税庁の解説によると、損益計算書は企業の経営成績を表す重要な書類とされています。
貸借対照表の分析
貸借対照表(B/S)は特定時点(通常は決算日)における企業の財政状態を表す財務諸表です。
主に以下の項目を分析します。
- 資産(流動資産、固定資産)
- 負債(流動負債、固定負債)
- 純資産
流動比率や自己資本比率などの財務指標を算出し、安全性や健全性を評価します。
資産の内訳や負債の構成にも注目が必要です。
キャッシュフロー計算書の分析
キャッシュフロー計算書は一定期間の現金の流れを示す財務諸表です。
以下の3つの区分に注目します。
- 営業活動によるキャッシュフロー
- 投資活動によるキャッシュフロー
- 財務活動によるキャッシュフロー
フリーキャッシュフローの推移や各活動のバランスを分析し、資金繰りの状況や将来の成長投資の余力を評価します。
一般的にはキャッシュフロー情報の重要性が指摘されています。
非財務情報の収集と分析
財務情報だけでなく、非財務情報の分析も経営診断には欠かせません。
以下の情報を収集・分析します。いわゆる社長ヒヤリングです。
- 経営者の資質と経営理念
- 組織体制と人材
- 事業内容と市場環境
- 技術力や研究開発状況
- 顧客満足度や評判
- ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組み
これらの非財務情報は、企業の持続可能性や将来の成長性を評価する上で重要な要素となります。
SWOT分析の実施方法
SWOT分析は、企業の内部環境と外部環境を総合的に分析するフレームワークです。
以下の4つの要素について分析を行います。
内部環境として、対象企業の「強み」と「弱み」。
外部環境は、対象企業にとって良い風となる「機会」と、逆風と考えられる「脅威」。
内部環境 | 外部環境 |
---|---|
強み(Strengths) | 機会(Opportunities) |
弱み(Weaknesses) | 脅威(Threats) |
SWOT分析の手順は以下の通りです。
- 各要素について、できるだけ多くの項目を列挙する
- 列挙した項目の重要度を評価し、優先順位をつける
同じ項目をまとめる - 強み×機会、弱み×脅威など、要素間の関連性を分析する
- 分析結果に基づき、戦略的な方向性を検討する
SWOT分析を通じて、企業の現状と今後の方向性を明確化し、経営戦略の立案に活用します。
以上の手法を組み合わせることで、企業の全体像を把握し、適切な経営診断を行うことができます。
次章では、これらの分析結果を基に、経営診断における仮説の立て方について解説します。
経営診断における仮説の立て方
中小企業診断士が行う経営診断では、ある程度の経営情報を収集したら「仮説」を立てます。
仮説を立てなければ、やみくもに検証しなければならず、工数の多くを無駄にしてしまいます。
「仮説」を立てて、その検証を行いながら方向性を定めていくのです。
問題点の洗い出し
経営診断における仮説立案の第一歩は、企業が直面している問題点を明確に洗い出すことです。
この過程では、以下の点に注意が必要です:
- 財務データの分析結果を基に、収益性や資金繰りの問題を特定する
- 従業員や経営者へのヒアリングを通じて、現場の課題を把握する
- 市場動向や競合分析から、外部環境における脅威や機会を見出す
- 過去の経営計画や戦略と現状のギャップを分析する
問題点の洗い出しは、表面的な症状だけでなく、根本的な原因を探ることが重要です。
例えば、売上減少という症状の背景には、商品力の低下、営業力の不足、市場ニーズとのミスマッチなど、様々な要因が潜んでいる可能性があります。
また、経営者が問題と思っていることが必ずしも問題ではないケースも多いので、「真因(根本的な原因)」を探ることも重要です。
仮説設定の重要性
問題点を洗い出した後、次のステップは仮説の設定です。
仮説設定は以下の理由から経営診断において非常に重要な役割を果たします。
- 診断の方向性を明確にする
- 効率的なデータ収集と分析を可能にする
- 客観的な検証プロセスを提供する
- 改善策の立案につながる具体的な指針となる
- 全方位ではなく、ポイントに絞って診断を行う事を可能にする。
仮説設定は「経営診断の質を左右する重要なプロセス」とされています。
適切な仮説があることで、診断の焦点が絞られ、より効果的な改善策の提案につながります。
逆にこの仮説の見立てが誤っていると、全く違う方向に向かってしまい、経営診断をやり直すことにもなってしまいます。
効果的な仮説立案のコツ
効果的な仮説を立案するためには、以下のポイントを押さえることが重要です:
1. データと事実に基づく仮説立案
仮説は単なる推測ではなく、収集したデータや観察した事実に基づいて立てる必要があります。
財務データ、市場調査結果、従業員の声など、多角的な情報を総合的に分析することで、より的確な仮説を立てることができます。
2. 具体的で検証可能な仮説を立てる
仮説は具体的で、かつ検証可能な形で表現することが重要です。
例えば、「営業力が弱い」という漠然とした仮説ではなく、「新規顧客獲得率が業界平均を下回っている」といった具体的な仮説の方が、後の検証や改善策の立案がしやすくなります。
この事例では、業界平均との比較が「仮説」に繋がったと思われます。
3. 複数の仮説を立てる
一つの問題に対して、複数の仮説を立てることで、多角的な視点から問題にアプローチできます。
例えば、売上減少の原因として、以下のような複数の仮説を立てることができます:
仮説 | 検証方法 |
---|---|
商品の競争力低下 | 競合製品との比較分析、顧客アンケートなど |
営業活動の非効率性 | 営業プロセスの分析、成約率の調査など |
新規市場開拓の遅れ | 市場シェア分析、潜在顧客へのヒアリングなど |
4. MECE原則を意識する
仮説を立てる際は、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)原則を意識することが有効です。
これは、「漏れなく(Collectively Exhaustive)」「ダブりなく(Mutually Exclusive)」、問題を網羅するという考え方です。
5. 仮説の優先順位付け
立てた仮説に対して、影響度や緊急度などの観点から優先順位をつけることで、効率的な診断と改善策の立案が可能になります。
優先順位付けの際は、以下の点を考慮します:
- 経営への影響度
- 改善の緊急性
- 検証や改善にかかるコストと時間
- 経営者や従業員の関心度
以上のポイントを押さえることで、経営診断における効果的な仮説立案が可能になります。
仮説を立てる過程自体が、企業の問題点を深く理解し、適切な改善策を導き出すための重要なステップとなります。
経営診断の具体的な手順
経営診断は、企業の現状を正確に把握し、問題点を特定して改善策を提案するための重要なプロセスです。
ここでは、中小企業診断士が実際に行う経営診断の具体的な手順について詳しく解説します。
事前準備と情報収集
経営診断を効果的に行うためには、十分な事前準備と情報収集が不可欠です。
経営診断を行う際には、まず以下の手順で準備を進めましょう。
- 企業概要の把握:業種、規模、沿革、経営方針などの基本情報を収集します。
- 財務諸表の入手:過去3〜5年分の決算書類を準備し、財務状況を把握します。
- 業界動向の調査:当該企業が属する業界の最新トレンドや競合状況を調べます。
- 経営者へのプレヒアリング:経営課題や診断の目的について、事前に経営者から聞き取りを行います。
情報収集の際は、公的機関が提供するデータベースも活用しましょう。
ヒアリングの実施方法
経営者や従業員へのヒアリングは、企業の実態を把握する上で非常に重要です。
効果的なヒアリングを行うためのポイントを以下に示します。
- ヒアリング対象者の選定:経営者、部門責任者、現場従業員など、幅広い立場の人から意見を聞きます。
- 質問項目の準備:事前に質問リストを作成し、聞き漏らしがないようにします。
- オープンクエスチョンの活用:「はい」「いいえ」で答えられない質問を多用し、詳細な情報を引き出します。
- 傾聴の姿勢:相手の話を遮らず、共感的な態度で聞き取りを行います。
現地調査のポイント
実際に現地調査することで、書類やヒアリングだけでは分からない問題点を発見できることがあります。
現地調査のポイントは以下の通りです。
- 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の状況確認
- 従業員の動きや作業効率の観察
- 設備や機械の稼働状況のチェック
- 在庫管理や物流の流れの確認
- 安全衛生面での問題点の有無
分析結果の整理と評価
収集した情報や現場視察の結果を整理し、企業の現状を総合的に評価します。
この段階での作業は以下の通りです。
- 財務分析の実施:収益性、安全性、成長性などの観点から財務状況を分析します。
- SWOT分析の作成:強み、弱み、機会、脅威を整理し、経営環境を把握します。
- 問題点の抽出と優先順位付け:発見された問題点を重要度と緊急度で評価します。
- 改善の方向性の検討:問題点に対する改善案を検討し、実現可能性を評価します。
分析結果の整理には、中小企業基盤整備機構が提供する経営分析ツールを活用すると効率的です。
分析項目 | 主な指標 | 評価基準 |
---|---|---|
収益性分析 | 売上高利益率、ROA、ROE | 業界平均との比較 |
安全性分析 | 自己資本比率、流動比率 | 一般的な基準値との比較 |
成長性分析 | 売上高成長率、経常利益成長率 | 過去の推移と業界動向 |
以上の手順を踏むことで、企業の現状を正確に把握し、効果的な改善策を提案するための基礎が整います。
次のステップでは、これらの分析結果に基づいて具体的な改善策を立案し、経営者に提案していくことになります。
仮説の検証と改善策の提案
データに基づく仮説の検証
経営診断において、立てた仮説を適切に検証することは非常に重要です。
データに基づく客観的な検証プロセスを経ることで、より信頼性の高い診断結果を導き出すことができます。
仮説の検証には、以下のような手順が一般的に用いられます:
- 定量的データの収集と分析(財務分析など数値的なデータ)
- 定性的情報の整理と評価(ヒヤリングなどの情報収集データ)
- 仮説と実際のデータとの比較
- 統計的手法を用いた検証(必要に応じて)
- 仮説の採択または棄却の判断
例えば、「営業力の強化が売上増加につながる」という仮説を立てた場合、過去の営業活動データと売上実績の相関関係を分析することで、仮説の妥当性を検証できます。
定量的データの活用
定量的データの分析には、以下のような指標が活用されます:
分析指標 | 概要 | 活用方法 |
---|---|---|
売上高増加率 | 前期比での売上高の伸び率 | 業界平均と比較し、成長性を評価 |
営業利益率 | 売上高に対する営業利益の割合 | 収益性の判断材料として活用 |
ROA(総資産利益率) | 総資産に対する利益の割合 | 資産の効率的活用度を評価 |
定性的情報の活用
定性的情報も仮説検証に重要な役割を果たします。
従業員へのインタビューや顧客アンケート、市場動向調査などから得られた情報を、仮説の裏付けや修正に活用します。
一般的に中小企業診断士は定性的情報の収集と分析に特に強みを持っており、企業の実態をより深く理解することができると言われています。
改善策の立案プロセス
仮説の検証結果に基づき、具体的な改善策を立案していきます。
このプロセスは以下のステップで進めます:
- 問題点の明確化と優先順位付け
- 改善の方向性の決定
- 具体的な施策の検討
- 実行計画の策定
- 期待される効果の試算
問題点の明確化と優先順位付け
検証結果から浮かび上がった問題点を整理し、影響度と緊急度を考慮して優先順位を付けます。
限られた経営資源を効果的に活用するためには、重要度の高い課題から取り組むことが重要です。
改善の方向性の決定
問題点に対する改善の方向性を、経営者や関係者と協議しながら決定します。
この際、実現可能性の高い方向性を見出すことが重要です。
具体的な施策の検討
改善の方向性に基づき、具体的な施策を検討します。
この段階では、以下のような点に注意が必要です:
- 経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の制約を考慮する
- 短期的な効果と中長期的な影響のバランスを取る
- 実行可能性と効果のバランスを考える
- 社内の受容性を考慮する
実行計画の策定
具体的な施策を実行に移すための計画を策定します。
計画には以下の要素を含めます:
- 実施スケジュール
- 責任者と担当者の明確化
- 必要な経営資源の配分
- 進捗管理の方法
- リスク管理策
期待される効果の試算
改善策の実行により期待される効果を可能な限り数値化し、試算します。
これにより、経営者や関係者に改善策の意義を明確に示すことができます。
改善提案の効果的なプレゼン
立案した改善策を経営者や関係者に提案する際には、効果的なプレゼンテーションが不可欠です。
以下のポイントに注意しましょう。
プレゼンテーションの構成
- 現状分析の要約
- 主要な問題点の提示
- 改善策の概要
- 期待される効果
- 実行計画の概要
- 質疑応答
視覚資料の活用
グラフや図表を効果的に用いることで、複雑な情報を分かりやすく伝えることができます。
特に、以下のような視覚資料が有効です:
- 問題点を示す現状のグラフ
- 改善後の状態を示す予測グラフ
- 実行計画のガントチャート
- 組織図や業務フロー図
説得力のある説明
改善策の提案には、以下のような要素を含めることで説得力を高めることができます:
- 客観的なデータや事実に基づく説明
- 業界のベストプラクティスや成功事例の引用
- リスクと対策の明示
- 投資対効果(ROI)の試算
- 段階的な実施計画の提示
以上のプロセスを経ることで、データに基づく仮説の検証から具体的な改善策の提案まで、一貫性のある経営診断を実施することができます。
中小企業診断士の専門知識と経験を活かし、企業の持続的な成長と発展に貢献することが重要です。
経営診断後のフォローアップと継続的改善のために
高い費用を払って経営診断を受けても、実行しない事には改善は見込まれません。
継続的に状況を確認し、適宜計画の見直しを行いながら進める必要があります。
診断結果の実行支援
経営診断が終了した後、その結果を実際の経営改善に活かすことが重要です。
経営診断のあと、その実行を確実に行うことが必要です。
診断結果の実行支援には、以下のような具体的なアプローチがあります:
- 優先度の高い改善策から順に実行計画を立てる
- 社内での改善プロジェクトチームの立ち上げをサポート
- 外部リソース(専門家、コンサルタント)の紹介と連携
- 定期的な進捗確認とフィードバックの実施
実行支援の過程では、経営者や従業員との密接なコミュニケーションが不可欠です。
その場合、診断士は「経営者の相談相手」として、改善策の実行をサポートする重要な役割を果たします。
PDCAサイクルの導入と運用
継続的な経営改善を実現するためには、PDCAサイクルの導入と効果的な運用が欠かせません。
PDCAサイクルとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)のサイクルを繰り返すことで、業務プロセスを継続的に改善する手法です。
PDCAサイクルの各段階における具体的な取り組み
段階 | 取り組み内容 |
---|---|
Plan(計画) | 経営診断結果に基づく具体的な改善計画の策定 |
Do(実行) | 計画に基づいた改善策の実施 |
Check(評価) | 実施した改善策の効果測定と分析 |
Act(改善) | 評価結果に基づく計画の修正と次のサイクルへの反映 |
PDCAサイクルを効果的に運用するためには、各段階で適切な指標(KPI)を設定し、定量的な評価を行うことが重要です。
定期的な経営状況のチェック方法
経営診断後も、定期的に経営状況をチェックすることで、早期に問題を発見し、迅速な対応が可能になります。
以下に、効果的な経営状況チェックの方法をいくつか紹介します。
財務指標のモニタリング
主要な財務指標を定期的にチェックすることで、企業の財務健全性を把握できます。
以下の指標を月次または四半期ごとにモニタリングすることをおすすめします。
- 売上高成長率
- 営業利益率
- 自己資本比率
- 流動比率
- 在庫回転率
非財務指標の定期的な評価
財務指標だけでなく、非財務指標も重要な経営状況のバロメーターとなります。
以下のような指標を定期的に評価することで、企業の総合的な健全性を把握できます。
- 顧客満足度
- 従業員エンゲージメント
- 新規顧客獲得数
- 製品・サービスの品質指標
- イノベーション指標(新製品開発数など)
定期的な経営会議の開催
月次または四半期ごとに経営会議を開催し、各部門の責任者から状況報告を受けることで、組織全体の経営状況を把握することができます。
この会議では、以下のような議題を取り上げることが効果的です。
- 各部門の業績レビュー
- 主要プロジェクトの進捗状況
- 市場動向や競合情報の共有
- 経営課題の洗い出しと対策の検討
経営診断後のフォローアップと継続的改善は、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠です。
中小企業診断士は、これらのプロセスを通じて、企業の長期的な成功を支援する重要な役割を果たします。
定期的な経営状況のチェックと、PDCAサイクルに基づく継続的な改善活動により、企業は常に変化する経営環境に適応し、成長を続けることができるのです。
まとめ
本記事では、経営分析から経営診断までの過程をご説明しました。
中小企業診断士が行う経営分析、経営診断のフルコースは、基本的にこのような流れで進められていることが多いです。
経営分析は企業の財務状況や非財務情報を客観的に評価する重要なプロセスであり、経営診断はその分析結果に基づいて問題点を特定し、改善策を提案する総合的な取り組みです。
経営分析では、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を詳細に分析し、SWOT分析などの手法を用いて企業の強みと弱みを明確にします。
これらの情報を基に、経営上の問題点について仮説を立て、検証していくことが経営診断の核心となります。
効果的な経営診断を行うためには、事前準備と情報収集、ヒアリング、現場視察など、様々なステップを丁寧に踏む必要があります。
そして、収集したデータを基に仮説を検証し、具体的な改善策を提案することが求められます。
経営診断は一度きりで終わるものではありません。
診断結果の実行支援や、PDCAサイクルの導入、定期的な経営状況のチェックなど、継続的な改善活動が重要ですし、例えば、トヨタ自動車の「カイゼン」活動や、セブン-イレブン・ジャパンの「単品管理」など、日本を代表する企業の成功は、こうした継続的な改善の取り組みに裏付けられています。
中小企業診断士は、これらのプロセスを専門的知識と経験を基に支援する重要な役割を担っています。
この経営分析、経営診断、改善計画立案などフルコースを行うことは大変な作業でもあり、中小企業診断士でも単独ではなくチームで作業することが多いです。
そのため費用も高額になってしまう傾向があります。
私たちの対応させて頂く中小企業の方々は、この一部だけをご依頼頂いたり、簡易診断をご依頼頂いたり、経営者ご自身で行った診断や分析の意見を求めたりと、工夫をされています。
経営者の皆様には、本記事で解説した経営分析と経営診断の手法を参考に、自社の経営改善に取り組んでいただければと思います。
専門家の支援を受けることで、より効果的な経営改善が可能となるでしょう。
継続的な経営改善の取り組みが、企業の持続的な成長と発展につながることを願っています。